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2009年5月 1日 (金)

楡の木の嘘

著者 吉岡忍 平凡社(それでも私は戦争に反対します:日本ペンクラブ編に収録)

1968年3月16日早朝、二十二機の米軍ヘリコプターでやってきた二個中隊、二百数十人の米兵がこの村を急襲した。自由と民主主義をおびやかす共産ゲリラ勢力を掃討する、という軍事作戦だった。

海沿いの集落を襲った一隊は手当たり次第に家々に飛び込み、M-16ライフル銃やM-60マシンガンをぶっ放した。いたるところで血が吹き上がり、骨や肉片が飛び散った。朝食のご飯を口にふくんだままの子供の頭が転がった。妊婦は腹をさかれた。腹から蹴りだされた胎児が空を切り、木の枝にひっかかった。

家から逃げ出した少女や女たちは捕らえられ、その場で強姦されたあと、裸のまま燃えさかる家に放り込まれ、焼き殺された・・・

ベトナム戦争のソンミ村虐殺事件を回想しながら、子ブッシュのイラク国民への米兵の無差別な暴力を想起させる内容です。

イラク国民へ無差別な暴力が行われた事実は、元アメリカ兵の描いた「イラク、米軍脱走兵、真実の告発」に詳しいです。

生き残りのベトナム人の老婆はソンミ村の虐殺を回想してこのように語ります。

「あの人たちは壊れていました」

「・・・あの兵隊たち。アメリカ人でも兵士でもなかったし、人間でもなかった。どんな動物だってあんなことはしない。あとになってくり返し、くり返し、彼らのことを考えました。だけど顔を思い出せない。思い出せないんじゃなくて、そこだけまっ白。青白く、何もない。あれはこわれた機械だった、壊れて、狂ったまま動く機械でした」

人の人間性を壊して狂った動物にしてしまう戦争。。その米兵の中にひとりだけ、虐殺に加わらなかった男がいたといいます。

カーターとかいう男だ。カーターは海沿いの集落に展開した小隊に属していたが、同僚が無差別虐殺を始めるのを見て、自分の銃で自分の左足を打ち抜いた。おれはこの作戦には加わらない、と決めたのだ。自分が狂った機械になる前に、自分で自分を壊した男が、あのとき一人だけいた。

この生き残りの老婆は、のちにアメリカを赦したと話はじめます。

あるとき気がついた。人間は憎しみを抱えて生きていくことはできません。憎悪は人間を岩や石にしてしまう。そうやって生きていくことは私自身が命を涸らすことになる。私はあの人たちを赦しました。あの人たちのためにも、私のためにも、です。一人で、この心のなかで「あなたたちを赦しますよ」と言ったんです。あの兵隊たちはアメリカ人でも人間でもなく、壊れた機械、壊れたこともしらずに狂ったようにしか動きまわれない機械だった。そう自分に言い聞かせることで私は憎しみを捨て、別の人生を見つけることができました」

おそらく、ナガサキ・ヒロシマの原爆投下で家族を失い、大切な人を失い、自分の身も心も傷つけられた被爆者のひとびとも、アメリカへの復讐ではなく、赦しの心で戦後、平和を願い、日本の再建に尽くしてきたのだとおもいます。

9.11テロで復讐心に燃え、まったく無関係の小さな子供や市民を虐殺し、生活を奪ってしまったのに、ひとかけらの心の痛みもなくのうのうと暮らし、笑っているブッシュや小泉元首相とどれだけ違う考えなのでしょうか。

このような論議になると、必ず、もしも自分の家族が敵性国の兵士に虐殺されたらどうするのだ、と尋ねる人がいます。敵性国の兵士は、心が壊れ、狂ってしまい、戦争の理由もわからない小さな子供を皆殺しにしたからといって、自国の兵士が、同じように敵性国の小さな子供を皆殺しにしてもいいはずがありません。

一度戦争が起こってしまったら、どれだけ良識のある、心の優しい兵士でも、罪のない子供を撃ち殺してしまったり、狂って見境なくなってしまった同僚が強姦や暴力を行うことを阻止すことが出来なくなってしまう可能性があるのです。恐怖心とはそういうものです。

浅田次郎の「もうひとりの私から、イラクへと向う部下へ」にありましたが、日本の自衛隊員たちはこの60年間、一度たりとも壊れた機械にならずに、誇り高い人間として生きてくることができたのです。

これからも、日本国民が、壊れた機械になって欲しくないと願うことは間違っていることなのでしょうか。憲法改正やら、核保有などがまことしやかにささやかれていますが。壊れた機械になるくらいだったら、相手を赦しながら人間として生きて行く道を選ぶべきなのではないのでしょうか。

憎しみという感情は、とても不毛です。世界中の人が、自分のすぐ隣にいる人たちを愛するようになるだけでも、世界はとっても優しい世界になれるのに。

誰もが自分のことしか考えない、誰かを踏みつけ、略奪し、誰も信用できない、そんな殺伐とした世の中に生きるより、思いやりを分かち合い、心を配る、そんな日々を生きる人たちが増えれば、この世の中は、ずっと住み心地がよくなると思えるのです。

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