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2009年6月30日 (火)

もうひとりの私から、イラクへと向う部下へ

著者 浅田次郎 平凡社(それでも私は戦争に反対します:日本ペンクラブ編に収録)

本書は、自衛隊のイラク派遣が決まったときに日本ペンクラブの作家が共同で執筆発表した文章を集めた一冊です。

ああ、じきに夜も空けるな。風も雪もおさまってきた。さ、定位置に戻って立哨せい。お前も寒さにはなれているだろうが、イラクの夏はひどく暑いらしい。何でも暑さの世界記録は、バスラで観測されたそうだ。信じられるか、摂氏五八・八度だとよ。

あのな。ロートル小隊長の最後の命令を聞いてくれるか。

おまえ、撃たれても撃ち返すな。橋や学校をこしらえていて、もしゲリラが攻撃してきたら、銃を執らずに、ハンマーを握ったまま死んでくれ。

正当防衛も緊急避難もくそくらえだ。他人を殺すくらいなら、自分が死んでこその人間じゃないか。

自衛隊は世界一猥褻な、世界一ぶざまで滑稽な軍隊だけど、そんな俺たちは誰も気付かぬ矜りがある。それは、五十何年間も戦をせず、一人の戦死者も出さず、ひとつの戦果さえ挙げなかったという、輝かしい不戦の軍隊の誇りだ。

GHQと戦後日本政府がこしらえたおもちゃの兵隊が、実は人類の叡智の結晶ともいえる理想の軍人であることを、ブッシュにも、無能な政治家どもにもわからせてやれ。

いいか。俺は昔の戦で死んだ大勢の先輩たちと、ほんとうの日本国になりかわっておまえに命ずる。

やつらの望んだ半長靴を、人間の血で汚すな。われらが日章旗を、人間の血で穢すな。誰がなんと言おうと、俺たちは人類史上例をみない、栄光の戦わざる軍人である。

復唱せよ。

現在、北朝鮮のミサイル問題で自衛隊が右往左往しているときに、浅田氏のこの文章は深く考えさせられました。

友人の旦那さんは自衛隊の隊員です。温和で真面目な旦那さんです。ときどき思います。もしも戦争がはじまったら、たとえ相手から攻撃をされて、正当防衛という理由があったとしても、このやさしそうなご主人が、何故戦がおこったのか理由もよくわかっていない小さな子供たちが暮らすまちの橋や建物を空爆したりするのだろうか。自分とまったく同様に、守るべき家族や親兄弟を持つ敵対国の軍人の胸に銃弾を打ち込むことが出来るのだろうかと。

自衛隊員の人たちは、わたしたち国民の代わりにとはいえ、なんと大変な役割を担ってしまったのだろうと思ってしまうのです。

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